日本に住む外国人の方にとって、在留資格の更新や変更の申請は、大きな不安を伴う手続きの一つではないでしょうか。「仕事があるか」「税金を払っているか」といった基本的な要件はよく知られていますが、出入国在留管理庁(入管)が公表している審査のガイドラインには、あまり知られていない、重要なポイントがいくつも含まれています。
これらの「隠れた」審査基準を知らないと、思わぬところで不許可のリスクを高めてしまうかもしれません。この記事では、専門家である行政書士の視点から、入管が実際にどのような点を重視しているのか、公式ガイドラインに基づいた,審査ポイントを5つに絞って解説します。
審査ポイント
最終判断は「総合的」:チェックリストを埋めるだけでは不十分
在留資格の審査で最も重要な原則は、最終的な判断が単なるチェックリストによる許可ではない、ということです。ガイドラインでは、許可するかどうかの判断は「総合的に勘案」して行われると明記されています。
つまり、個別の要件をすべて満たしているように見えても、申請者を取り巻く状況全体を見て「在留を認めるのが適当ではない」と判断されれば、不許可になる可能性があるのです。この大原則は、法務大臣の裁量に委ねられていることを示す以下の条文に集約されています。
法務大臣が適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り許可する
申請書類を揃えることはもちろん重要ですが、それだけでは不十分です。ガイドラインには、「これらの事項にすべて該当する場合であっても、すべての事情を総合的に考慮した結果、変更又は更新を許可しないこともあります」と明記されています。つまり、自分の日本での生活全体が審査の対象になっているという意識を持つことが、何よりも大切なのです。
健康保険証の提示は求めるが…「提示できなくても不許可にはしない」という真実
申請時には、社会保険への加入状況を確認するため、健康保険証の提示が求められます(マイナポータルの「資格情報」画面等)。しかしながら、ガイドラインには、たとえ提示できなくても、それ自体が不許可の理由にはならない、とはっきりと書かれているのです。
健康保険証等を提示できないことで在留資格の変更又は在留期間の更新を不許可とすることはありません。
では、なぜ提示を求めるのでしょうか。これは、健康保険への加入が日本で生活する上での公的義務の一つであり、その履行状況を「総合的判断」の一つの材料として確認するためと考えられます。つまり、提示できないことが即不許可にはつながらないものの、社会保険に適切に加入し、責任ある社会の一員として生活していることを示すことは、重要だと言えるでしょう。
「在留資格に合った活動」:退学した留学生や失踪した技能実習生は?
在留資格の審査では、「現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと」が厳しくチェックされます。これは、単に日本に滞在しているだけでは不十分で、許可された活動を誠実に行っていた実績が問われるということです。
ガイドラインでは、この要件を満たしていない場合の具体例として、非常に厳しいものが挙げられています。
• 失踪した技能実習生
• 除籍・退学後も在留を継続していた留学生
•資格外の活動の有無
これらの例は、「正当な理由がある場合を除き」、在留資格の活動を行っていないことがいかに深刻な消極的要素として評価されるかを示しています。病気や家庭の事情といったやむを得ない理由がない限り、学校や職場から離れ、在留資格の根拠となる活動をしていない期間がある場合、更新や変更は極めて難しくなります。
また、これに加えて、正当な理由なく長期間にわたって日本を離れている場合(再入国許可やみなし再入国許可を利用した場合も含む)も、消極的な要素として評価されるため注意が必要です。
税金だけじゃない!「国民健康保険料」の未納も?
「公的義務の履行」と言えば、多くの人が所得税や住民税の納税を思い浮かべるでしょう。しかし、入管が見ているのはそれだけではありません。ガイドラインでは、税金と同様に「国民健康保険料など、法令によって納付することとされているもの」の納付状況も審査対象であることが明確に記載されています。
特に注意すべきは、未納の状況が深刻な場合です。高額な未納や長期間にわたる未納が判明した場合、それは「悪質なもの」と見なされ、納税義務の不履行と同等に扱われます。これは「素行が不良でないこと」という別の審査項目にも関わる重大なマイナス要因となります。
税金は完納していても、国民健康保険料の支払いが滞っている方は少なくありません。申請前に、必ず市区町村の役所でご自身の納付状況を確認し、もし未納があれば、分納の相談をするなど、誠実な対応を始めていることを示すことが不可欠です。
会社の違反はあなたを罰しない?「労働条件」の審査における救済措置
日本で就労している場合、その雇用・労働条件が労働関係法規に適合していることも審査項目の一つです。しかし、もし会社側が法律に違反するような労働条件を提示していた場合、その責任は誰が負うのでしょうか。
この点に関して、ガイドラインには申請者にとって非常に心強い一文があります。それは、もし労働法規違反が発覚したとしても、申請自体その点が勘案される。という点です。
通常、申請人である外国人に責はないため、この点を十分に勘案して判断されることとなります。
これは、審査が申請者個人の素行や責任能力に焦点を当てており、雇用主の不備によって申請者が不利益を被ることがないように配慮されていることを示しています。もしご自身の労働条件に不安がある場合でも、正直に状況を説明することが重要です。
まとめ
在留資格の更新・変更申請は、単に書類を提出する作業ではありません。審査官は、あなたが日本社会の責任ある一員として、誠実に生活しているかどうかを「総合的」に見ています。
今回ご紹介した5つのポイントは、その審査の深さを示すほんの一例です。あなたの申請書類は、単なる紙の束ではなく、あなたの日本での生活そのものを語る物語です。あなたの物語は、審査官にどのように伝わるでしょうか?申請前に一度、この視点からご自身の状況を振り返ってみることをお勧めします。
